金剛ニュータウン

市内にはない広さと安さが、
若者や子育てにもってこいの落ち着いたまち。

南大阪の代表的なニュータウンは、
折り重なる歴史とあふれる緑に包まれながら、
新しい世代も増えてます。

大阪都心部の北浜で、「FOLK old book store」(以下、FOLK)という古本屋さんを営む吉村祥さん。店内ライブや展覧会が開かれたり、平日のお昼は評判のスパイスカレー屋に1階を間貸ししていたりと、なにかと話題がたえないFOLKですが、そんな吉村さんの住まいは都心から南へ約1時間、富田林市・金剛エリアにありました。 南海金剛駅、近鉄富田林駅の間に開発された金剛ニュータウンは、現在も約2万人の住民が暮らすベッドタウン。計画的に開発された街並みと、その後の街と自然の成熟が溶けあって、とても落ち着いた街だという印象を受けます。 大阪といえば大阪市24区のことを思い浮かべる人が少なくないでしょうが、大阪府下にある43市町村には、まだまだ大阪人も見落としがちな街の個性と大阪らしさが潜んでいる…改めてそう思い知らされた取材でした。

インタビュー・テキスト竹内厚

大阪住まい歴はいつの間にか30年超。情報誌の編集からこの仕事をはじめて、今は雑誌、単行本、フリーペーパー、ウェブマガジンなどの編集、執筆を手がける。編集を担当しているUR都市機構とのウェブマガジン「OURS. KARIGURASHI MAGAZINE」で、吉村さんのFOLKと「団地の市」というイベントを過去2回、共同開催しました。

住まいは庭のあるテラスハウス。

吉村祥さん

1984年生まれ。東大阪市出身。大阪芸術大学写真学科卒業。カメラマン、雑貨店スタッフを経験後、本好き、コミック好きを活かすべく2010年9月に天神橋にて「FOLK old book store」をオープン。他の書店や古書店で開催されるトークイベントなどに招待されることも多く、そこで広がる人とのつながりを大切にしている。

竹内厚

吉村さんの住まい、団地という名前ですけどテラスハウスなんですね。さまざまなテラスハウスが立ち並んで、その内部は車が入りこまない歩行者専用道に。独立した小さな村という感じも受けます。

吉村祥

そうなんですよ。しかも同じテラスハウスでもいろんなタイプの家があって、長く住んでいる方は庭にテントを立てたり、草花を育てたりして、好きずきに暮らしている感じがしますよね。最初に見たときは、ちょっとアメリカみたいやなとも思いました。

竹内厚

戸別に専用の庭もあって、それもかなり広い。

吉村祥

うちの庭は、まだ全然使いこなせてないんですけどね。まだその余裕がなくて…。庭も合わせると、うちの家でも敷地面積は80~90㎡くらいあると思います。

竹内厚

広っ!

吉村祥

前の家と比べると、広さは倍になりました。

竹内厚

いきなり尋ねちゃいますけど、それで家賃はいくらぐらい…。

吉村祥

UR賃貸住宅の子育て割とかいろいろ含めると、今のところ、家賃は6万円台です。

竹内厚

安っ!やっぱり都心部とは全然違いますね。

吉村祥

家賃のこともありますけど、やっぱり環境が全然違ってますね。テラスハウスの敷地自体もそうですし、周りに公園も多くて、自然があふれてる感じがします。もう緑だらけ!

竹内厚

ちなみに前の家というのは、「FOLK old book store」のある北浜へも自転車で通える、大阪市内だったんですよね。

吉村祥

そうです。夜、飲みに行ったりとかそういう面では市内の方がよかったところもありますけど、子どもが生まれたので、奥さんの実家にも近い、富田林に移ることになりました。こちらに引っ越してきてまだ8カ月くらいですけど、便利な街ですよ。暮らすのに必要なお店は、だいたい近くに揃っています。ただ、本当はもうちょっと個人でされてるようなお店を探して行きたいんですけど、まだなかなか時間がとれなくて。

竹内厚

それじゃあ後から、気になる街の方へ行ってみましょうよ。

都心と郊外のニュータウンを行き来する生活。

竹内厚

もともと、吉村さんは大阪育ちなんですか。

吉村祥

2歳までは大阪の八尾。そこから25歳くらいまで石切なので、大阪市内ではないんですが、ずっと大阪府内にいますね。

竹内厚

「石切さん」といえば大阪人の誰もが知る、神社と個性的な参道のある東大阪の街ですね。

吉村祥

FOLKを始めた後、しばらく大阪市内の玉造でひとり暮らしをしていて、結婚してからもう少し広い近所の家へ移りました。そしたら子どもが生まれて、富田林へ。実は、大学は大阪芸大だったので、学生時代にも富田林方面へ来ていたはずなんですけど、当時はそこまで街を楽しむような感覚もなく、石切の実家と大学の往復だったので、あまりこのあたりのことを知る機会もなくて。

竹内厚

大阪芸術大学は河南町だから、富田林のすぐ東側です。ちなみに、石切、八尾、富田林、河南町って地名が並ぶと、大阪東部を南北に移動しているような感じですよ。いわゆる、「河内」と呼ばれるエリア。

吉村祥

自分では全然意識してませんでしたけど、そうですね。やっぱり縁があるのかもしれません(笑)。

竹内厚

FOLKから金剛の家までは、地下鉄と南海電車を使って1時間くらいでしょうか。

吉村祥

南海電車の金剛駅に着いてからバスなので、もうちょっとかかりますね。引っ越した当初は、ちょっと遠いなと思ったこともありましたけど、本を読んだりメールの返信とかやってたら、あっという間ですね。

竹内厚

職場と家の理想的な距離は人それぞれ。

吉村祥

はい、ちょうど切り替えられるくらいの距離だと思います。金剛駅まで帰ってくると、駅前にはまだちゃんと街の本屋さんがあって、そういうのもうれしい。

竹内厚

駅前の小さな本屋さんって、なくなる一方ですもんね。

吉村祥

そうなんですよ! ほどよく新刊が揃ってる本屋さんで、文房具も販売されていて。ちゃんとそれだけの需要がある人口が暮らしているんでしょうね。そういえば、一度酔っぱらって金剛駅から家まで歩いて帰ったら、石切のことを思い出しました。坂道の多いところが似ているのかもしれません。石切は生駒山麓の街なので。

竹内厚

金剛は昭和40年代に開発されたニュータウンですけど、もとあった土地の形を活かした形で街ができているので起伏も多くて、地形を意識させる街ですね。

吉村祥

うちの近くの公園にも高台があって、そこからだと見晴らしもいいんです。

竹内厚

まず、公園がものすごく広々としてることが驚きですよ。子育てにはもってこい。

吉村祥

まあ、大阪市内にはない広さですよね。うちの子どもも、もう少し大きくなれば、あの公園で遊ばせることになると思います。

竹内厚

その予行演習として男ふたり、シーソーでもやっていきますか(笑)。

タイムスリップしたような街で、魅力的な店に出会った。

吉村祥

近鉄富田林駅の東側に寺内町(じないまち)という古い町並みが残っていて、そこにうちの奥さんの家族が昔から行ってる喫茶店があるんです。レンガ造りの外壁にツタが絡まって、すごく雰囲気がいいんですよ。「ナロード」っていう名前のお店です。

竹内厚

ナロードはまだ営業時間前ですけど、まずは寺内町まで行ってみましょうか。

吉村祥

寺内町は金剛からだと車で10分くらい。でも、街の成り立ちがまた全然違うんですよ。最近では「一箱古本市」のようなイベントが開かれたり、小さなお店も増えているようで、これから僕も通いたいと思ってるエリアなんです。

竹内厚

富田林在住の古本屋店主としては、これから積極的に参加していかないとね。…と寺内町に到着しました。大阪にこんなにも古い町並みが残ってるんですね。

吉村祥

7世紀中頃から明治にかけての町家が多いそうです。映画のセットかと錯覚するくらい、見事な町並みが残ってますね。あっ、ネコです、こっちにも。

竹内厚

ネコも似合う町並み…吉村さんとのツーショットをゼヒ撮りましょう。

吉村祥

あぁ…逃げました。ネコからのNGが出ました(笑)。あそこに見える「たびもぐらカフェ」という店にも行ってみたかったけど、今日は閉まってますね。

竹内厚

取材する時間と曜日を考えろよという話ですが…。(ちなみに現在、日曜日の朝10時半)

吉村祥

おっ、隣の店は開いてますよ。「本」という看板!

竹内厚

「ポク―・レコード」という、長屋の一角をオープンに開いた店ですね。

吉村祥

こんにちは、もうお店開いてますか?

吉村祥

大丈夫ですよ。昨日、イベントをやってたので、ちょっとまだ片付いてないんですけど。

吉村祥

おじゃまします。

吉村祥

どうぞどうぞ。ポクー・レコードのクダと申します。

吉村祥

吉村です。僕も大阪で古本屋をやっています。

吉村祥

そうなんですね!

竹内厚

昨日は何のイベントだったんですか。

吉村祥

手づくりの電子音楽イベントで、たまにいろいろやってるんです。

竹内厚

この長屋で電子音は気持ちよさそうですね。今も味のある電子音楽が流れてます。

吉村祥

お店ができてどれくらいですか。

吉村祥

今年の3月にオープンしました。もともとケーキ屋だった建物ですけど、天井を抜いて古民家から廃材を運び込んで、1年かけて自分で改装したんです。

吉村祥

オープンしてまだ4カ月には見えない味が出てるなと思ったら、DIYで店づくりされたんですね。ちょっと変わった本が揃っていて、本棚も面白い! これ買わせてください。『自然と友だちになるには?』を。

竹内厚

僕はこれを。『たのしい造形 凧』

吉村祥

ありがとうございます。

竹内厚

寺内町、最近盛り上がっていますよね。

吉村祥

そうですね、いろんな店が増えてきて面白い感じになってきたので、若いお客さんも少し増えてきました。よかったらまたのぞきに来てください。

店も暮らしも「余白」が楽しい。

竹内厚

古本を選んでいる間に、ちょうど「ナロード」の開店時間になりました。古本を買って喫茶店へ。最高の街歩きになりましたね。

吉村祥

ほんとにほんとに。「ナロード」は、夜遅くまでやっていて、ボルシチとかもおいしいんです。大阪芸大の学生もよく来るそうで、僕が学生の時は、全然知らなかったけど…。

竹内厚

店内はクラシック音楽が流れて名曲喫茶の趣きですが、マスターによればジャズや浪曲を流していたこともあるって。

吉村祥

70年代のはじめに開店したそうですね。

竹内厚

寺内町と金剛。まるで性格の違った街がすぐ隣り合ってるというのが実感できて、楽しかったですね。

吉村祥

そうなんですよ。金剛はやっぱり暮らすための街、緑も多くて子育てに向いた街だと思いますけど、寺内町は歴史的な町並みの一方で、さっきの「ポクー・レコード」のような新しい動きもあって面白いですね。

竹内厚

「ポクー・レコード」のクダさんは、河南町で自然農もされてると言われてましたね。畑まで歩いて行けると。

吉村祥

そうでした。畑のワークショップもされてるとか。古本、古レコード、古着の店で、電子音楽イベントに畑…うちのFOLKも負けてられないですね(笑)。

竹内厚

そういった何の店って形容すればいいのかよくわからないお店、大阪には結構、多いですよね。

吉村祥

それが大阪のいいところだと思うんですよ。東京は大きな資本でもうできあがってる街という勝手なイメージを抱いてますけど、大阪にはまだまだ余地がたくさんあるんじゃないかと思ってます。FOLKをやっていても余地をどうしようか、いつも考えています。

竹内厚

凝り固まってないんですよね。

吉村祥

そうそう。それは店づくりのことだけじゃなくて、暮らしの面でも楽しもうと思ったら、自分次第でめっちゃ楽しめる街なんです。

竹内厚

確かに、生活環境にも自分で変えていける余地がわりとありますよね。これが足りないと思ったら、自分でイベントを開いてしまったりとか。吉村さんの富田林ライフもまだ始まったばかり。これからが楽しみですね。